櫃田は、風景画を測定可能な自明な存在としてではなく、「通り過ぎる」「通り過ぎられる」だけの断片的にしか認識できない仮象として位置づけています。そのような印象を与えるために、櫃田はブリコラージュという手法で、さまざまな瞬間や場面を並列に配置しています。そのひとつひとつを積み重ねていくことで、空間そのものが変容していくような構図ができあがる。 櫃田は学生時代から日本美術史に強い関心を抱いており、彼の作品は日本美術史の文脈に深く根ざしたものであることがわかる。平面と空間を重視し、鳥瞰的な視点で描かれた風景画は、源氏物語絵巻、酒井抱一の屏風に見られる灰色と黄色の繰り返し、水墨画への敬意として意図的にぼかされた輪郭線に反映されているのかもしれない。また、一貫して山を描き続ける櫃田は、国宝「日月山水図屏風」とも呼応し、モチーフを持たずに画面を拡張していく作風は、日本画の根幹と呼応するものであろう。
(KAYOKOYUKI, Tokyo)